『第7章 コグノスコピー(認知機能検査)まずは状況を知ろう』に書かれている、アルツハイマー病の詳細メカニズムを、検査項目からひも解いて解説していきます。
インスリン抵抗性 ※0:糖は依存性の毒
(※0 身体のインスリンに対する感受性が低下して、インスリンが分泌されていても十分に働かない状態[高血糖をまねく]。細胞自身が不要なタンパク質などを分解する仕組み)
炭水化物を中心とした食生活が、アルツハイマー病のリスクを招いています。
パン、ご飯(お米)、砂糖、肉や油など、美味しいものは、リスクを伴っています。
しかし、薬に頼らずに、健康的な食事を心がけることは、1番ハードルが低く、誰でも実行できる治療・予防の対策です。
定期的な運動にはメリットがたくさん(P.280)
インスリン抵抗性を減少させたり、脳由来神経栄養因子の生産を促進する、萎縮する海馬を大きくする、ニューロンやシナプスの健康に不可欠な血管機能の改善、ストレス軽減、睡眠改善、生まれたばかりのニューロンの生存率を高める、気分改善など
空腹時インスリン値(検査項目)
高インスリン(※1)と高血糖は、アルツハイマー病の最も重要な危険因子。
人間の体は、1日に15gを超える砂糖を処理するようには作られていない。
※1 インスリンはどのような役割? 食事によって血糖値が上がると、すい臓のβ細胞がこの動きをすばやくキャッチして、すぐにインスリン(というホルモン)を分泌して、食後に増加した血糖は一定量に保たれます。血糖が全身の臓器に運ばれると、インスリンの働きによって臓器は血糖をとり込んでエネルギーとして利用したり、たくわえたり、さらにタンパク質の合成や細胞の増殖を促したりします。
もし、インスリンの量が少なかったり、分泌されても上手に働くことができなくなると、血糖が一定の値を超えて高い状態が続きます(高血糖)。この状態が糖尿病なのです。
【高インスリン】
①ニューロンの生き残りを妨げる… インスリンのシグナル伝達は、ニューロンの生き残りを助けるシグナル伝達を引き起こす。しかし、慢性的にインスリン値が高いと、このサバイバル・シグナルが鈍化される。
②アミロイドβの増加… 体は、IDE(インスリン分解酵素)を使ってインスリンを分解する。しかし、IDEはアミロイドβの分解も担当している。そして、IDEがインスリン分解で手が離せないと、アミロイドβが分解されない。そこで、アミロイドβが増加し、アルツハイマー病の原因となる。
【高血糖(高グルコース)】
③グルコース高値は1型と2型アルツハイマー病の原因… グルコース(ブドウ糖=脳や体のエネルギー源)が高値になると、慢性的なインスリン高値以上の問題を引き起こす。グルコースは多数の異なるタンパク質に接着し、タンパク質の機能を妨げる。ヘモグロビンA1cは、そのような変性した分子を簡易に測定したものだ。
ヒッチハイキングするこれらのグルコース分子は、生化学反応を起こし、AGE(終末糖化産物 ※2)を産生する。これらの分子は、異なるいくつかのメカニズムにより打撃を与える。
※2 タンパク質に糖が結合し、熱が加わることで毒性の高い物質に変化した老化タンパク質のひとつ。動脈硬化やアルツハイマー病、骨粗しょう症、白内障などに関連すると考えられている。
(1)炎症の引き金
AGEが接着したタンパク質は、免疫細胞には異物に見えるため、自分自身のタンパク質に抗体を作ってしまい、炎症の引き金となる。
(2)炎症
AGEは、自身にあるRAGE(終末糖化産物受容体)と呼ばれる受容体に結合し、また炎症を引き起こす。
(3)接触したもの全てにダメージ
AGEは、フリーラジカル(※3)生成の原因となり、DNAや細胞膜など、この不安定な反応性物質がぶつかったものには、何であれダメージを与える。
※3 電子が、安定したペアの状態ではなく、ひとつだけの不対電子を持つため、物質から電子を奪い取ろうとする性質を持った原子や分子
(4)1型と2型アルツハイマー病の原因
変性したタンパク質は、血管を傷つけ、脳への栄養供給を減らし(※4)、血液と脳の間にあるバリアにおける漏れの原因となる(※5)
※4 1型 アルツハイマー病の原因、※5 2型 アルツハイマー病の原因
『第8章 リコード法 認知機能を回復する』に書かれている、アルツハイマー病(認知症)の治療方法は、
インスリン抵抗性を改善する
DESS(※6)と呼ばれるコンビネーションの実行
※6 Diet, Exercise, Sleep and Stress reduction:食事、運動、睡眠とストレスの軽減
食事は、リコード法プログラム全体でも、認知機能低下の回復に驚くほど影響力が強い。
なぜ、脳機能に食品が極めて重要なのか?
私たちの体の最も興味深い能力のひとつは、与えられた活動(※7)に対する、最適モードへの切り替え能力である。睡眠は回復と充電には最適だが、バスケットボールをするには、起きている状態のほうがずっとよい。(※7 例:睡眠状態と起きている状態)
同様に、炭水化物や脂肪など、主なエネルギー源を使うときの基本的なスイッチも存在する。私たちの先祖は、狩りがうまくいき、大量の肉を得たときには脂肪を燃やし、秋に果物が熟したり、植物や根菜を収穫するときには炭水化物を燃やした。
このスイッチ切り替えの繰り返しを、「代謝柔軟性」と呼ぶ。寝ても起きてもいない状態におちいったと仮定してみると、どちらの状態からも、きちんと恩恵を受けられない。バスケットボールも上手にできないし、実際の睡眠時に得られるような回復感もあられない。代謝柔軟性が機能しなくなると、まさにこれが起こるのだ。
このことは、インスリン抵抗性がある人や、結果としてアルツハイマー病のほとんどの患者に共通する点である。細胞が、炭水化物、脂肪どちらにも最適に代謝できなくなっているのだ。
インスリン感受性と代謝柔軟性を回復することは、
1.栄養因子の産生
2.インスリンの栄養作用への反応
3.肥満や脂肪蓄積および心血管状態の改善
4.ホルモンやホルモン反応の最適化
5.認知力の向上
に非常に重要である。
最適な食事については、後の記事で説明します。