『アルツハイマー病 真実と終焉』を解説(9):アルツハイマー病は自分で予防できる(第4章の後半)

『第4章 アルツハイマー病になる方法 入門編』の後半を解説(?)

炎症とアミロイドに関連する アルツハイマー病の基本メカニズム

認知機能の低下は、主に脳に対する3つの基本的な脅威の問題だ。

アルツハイマー病と呼ばれるものは、

    1. 炎症
    2. 脳を活性化する栄養素・ホルモン・その他認知機能を補助する分子の不足
    3. 毒物への暴露※1

※1 薬品などの化学物質, 放射線, 毒素, 細菌などにさらされること、またはさらすこと

これら3つの脅威に対する、脳の防御反応だ。

このうち1.と2.は、代謝と密接につながっている。

代謝とは、食事の働き活動水準遺伝子ストレスへの暴露とその対応だ。

「食事・活動・ストレス」は、心血管の健康と望ましい健康状態における別の側面にも影響を及ぼすため、脳の健康全体的な身体の健康密接に関係する。アルツハイマー病リスクを上昇させる条件※2の非常に多くが、何をどのくらい食べて運動したかという結果になっているのも不思議ではない。

※2 前糖尿病肥満から、ビタミンD欠乏すわりがちの生活スタイルまで

炎症・脳の補助物質の不足・毒性物質への感受性を引き起こす原因はごまんとあり、だからこを認知機能が低下する原因になる。だが、すべて特定できるし、対処可能だ。早ければ早いほどいい。

1.脳の炎症を予防する、低下させる

炎症※3は、攻撃に対する体の応答。

※3 ボレリア(ライム病)のような病原体が原因の場合や、そのような感染が無くても、糖化タンパク質トランス脂肪などの非炎症性ストレスが原因で炎症を起こす場合もある。トランス脂肪は人工脂質で、以前は焼いた食品やファーストフードのいたるところで使われていた(今は徐々に減らされている)。

・炎症プロセス 第1… 免疫システムの活性化

体に病原体が侵入すると、病原体がいる区域に免疫システムがあふれ出て、白血球が病原体を飲み込んで貪食する。

・炎症プロセス 第2… アミロイドの産生

しかし、深刻な脅威と闘うために炎症性反応を始めなくてはならないとき、その脅威が慢性的で、炎症性反応が継続的に活性化されると問題になる。すると、強力な病原体戦闘兵士としてアミロイド※4が産生される。しかし、アミロイド最終的に過剰になり、アミロイド自身が保護するために集められた、まさにそのシナプスと脳細胞を殺すのだ。

※4 アミロイドは、アルツハイマー病を特徴づける脳の斑(プラーク)をまさに形成する物質でもある。

だからこそ、認知機能の低下を防いで回復させるには、潜在的な炎症に対処し、免疫システムの病原体破壊力を最適化し、こうした病原体と何年も闘って生じる慢性的な炎症を減らさなくてはならない

・炎症の原因であるトランス脂肪や糖の摂取は避ける

感染が無くても、トランス脂肪や糖を摂っても炎症が引き起こされる。また、グルテンや乳製品消化で、胃腸がダメージを受け、リーキーガット※5を引き起こしても、体は炎症反応を開始する。この状態では、消化管には微細な穴が生じ、食品やバクテリアの断片が血流に乗ってしまい、炎症を引き起こす免疫システムがこうした食品の断片を認識し、外部侵入者として、攻撃するのだ。

※5 胃腸漏れ症候群ともいう。腸上皮細胞の固い密着結合がゆるんで腸に穴が空いたようになり腸のバリア機能が低下して食物や有害物質などが体内に漏れ出している状態

グルテンを含む食品一覧

慢性的な炎症は、次のときに生じる。

    • 危険なカビに絶え間なくさらされたとき※6
    • 定期的に砂糖のような炎症誘発性の食品を摂取したとき

※6 通常、口の中のバクテリアが、痛んだ歯ぐきから、血流に漏れ続けるように

『リコード法』では、次のことを目的としている。

    • 現在進行中の感染と炎症を誘発する食品を除去する
    • 慢性的な炎症を抑える

炎症糖毒性により起きていると、通常はインスリン抵抗性をともなう。インスリン抵抗性には、多くのアメリカ人だけでなく、10億人を超す世界中の人々が苦しんでいる。人間が進化の過程で処理できるようになった砂糖の量は、ほんのわずかだ。

1日15g約355ml の ソフトドリンク半量 よりも 少ない

私たちの体は、糖を毒とみなす。だからこそ、すばやくいくつものメカニズムを活性化させて、血中と組織内の糖濃度を下げる。ひとつの理由は、余分なエネルギーは脂肪として蓄える※7のだが、それが脳にダメージを与える要因である、(悪玉)アディポカイン(※8)を産生する。

※7 余った糖は、脂肪に変換されて蓄えられる。(メタボリックシンドロームに関する研究が進み、脂肪組織は様々な生理活性物質を分泌する内分泌組織であるとの考えが根づいてきた。健常人の脂肪細胞からは善玉アディポサイトカインが放出されているが、脂肪の蓄積により脂肪細胞の肥大化が生じると機能異常を引き起こし、悪玉アディポサイトカインを放出するようになる。アディポサイトカインの中でも血中に最も多く存在するのが善玉アディポサイトカインのアディポネクチンであり、抗動脈硬化作用などを示すが、内臓脂肪が蓄積した患者ではその分泌量が低下している。)悪玉アディポカインの1つTNF-αインスリン抵抗性を引き起こす。

※8 アディポカインアディポサイトカイン

この悪玉アディポカインは、糖の、特にグルコース(ブドウ糖)の中で、血液につかってまだ残っている。

グルコース分子は、多くのタンパク質にくっつき、タンパク質の機能を問答無用に阻害する。

グルコースが洪水になる(つまり高血糖値が続く)と、アルツハイマー病の発症につながる、様々な悪循環が始まるのだ。

高血糖が続く(糖尿病)と血管系の病気

血液がドロドロになり、血管を傷つけ、動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞を発症する。

血糖値を分解するインスリンの分泌増加が継続するとアルツハイマー病リスク上昇
インスリン抵抗性

身体のインスリンに対する感受性が低下して、インスリングルコース(ブドウ糖)を分解するの働きが鈍くなる状態、インスリン抵抗性を示す。脳細胞ニューロンの生き残りを助けるシグナル伝達鈍化する。インスリンが不要なタンパク質を分解できなくなり、代わりに細胞自身がタンパク質などを分解する仕組み。

アミロイド(アルツハイマー病を引き起こす)を分解できない

アルツハイマー病でシナプスを破壊する、アミロイドを分解できるIDEは、増加したインスリンを分解している間は、アミロイドの分解はできない(1度に両方を分解できない)。つまり、アルツハイマー病リスクが上昇する。

リコード法の最重要部分は、インスリン抵抗性を低下(インスリン感受性を回復)し、血糖値を低下させ、それにより代謝を最適化すること。

2.ホルモン、栄養素、栄養物(食品)を最適化する

生化学メカニズムを利用して、アミロイドによる脳細胞の破壊(脳のダメージ)に抵抗できるよう、シナプスを強化する。

最もいい状態で脳を働かすために、特定のホルモン栄養素栄養のある食品など、神経とシナプスの補助因子が必要だ。『リコード法』では、それらを上昇させる方法を実行する。

(1)シナプスとニューロンを強化する…BDNF(脳由来神経栄養因子)を運動で増やす

(2)ホルモン最適化…エストラジオール、テストステロンを栄養補助食品か処方箋で摂取

(3)栄養食品…ビタミンD(日光浴)、葉酸

3.毒物を除去する

アミロイドは毒素に対する血清の役割を果たす

ヘビににかまれて毒が入ったら、毒に結合し不活化する血清が必要だ。これと同じように、アミロイドは、脳に有毒金属(銅、水銀など)や生物毒素(マイコトキシンなど)が侵入すると血清の役割を果たすことがわかった。

アミロイドは、これらの毒素と結合することで、ニューロンにダメージを与えないようにしている。アミロイド斑の形成を防ぐことが、とても重要なので、『リコード法』では、毒素によるアミロイドの誘発を減らす、効果的な方法を実行する。

アミロイドを大量生産する理由をなくす

まず毒素暴露の特定から始め、発生源を取り除いてから解毒(デトックス)する。特に、アブラナ科の野菜などのデトックス食品を摂り、きれいな水を補給し、特定種類の毒素を基本的にサウナで除去し、グルタチオンのような重要な分子を増やすようにする。こうして、脳がアミロイドを大量生産する理由がなくなる

次にシナプスの修復と保護

「炎症・シナプス補助物質の不足・毒物暴露」3つの脅威を全て取り除いたら、破壊されたシナプスを修復し、新しいシナプスや残っているシナプスを保護することがとても重要だ。

後述するように、複数の研究グループが、シナプスの形成を促進させる化合物を特定している。

『リコード法』は治療の集中砲火

ここで紹介しているプログラムは、薬を処方することとは全く異なる。アルツハイマー病のような慢性の複合疾患には、たくさんの原因がある。

だからそのすべてに対処すること、要するに単純に薬1錠ではない、個別化した治療プログラムの集合が、最適な治療になる

『リコード法』は、薬1錠飲むより包括的なだけでなく、より効果的でもある。ひとつの異常を標的とした特効薬ではない。認知機能を低下させる多数の原因を全部一斉に標的とした治療の集中砲火なのである。





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